経営コンサルタントのジレンマ‐その1
私たち経営コンサルタントは、文字通り、経営者のためにコンサルティング(支援)を行う存在である。従って、経営者側に何か解決すべき課題を抱えている状況で、その課題解決のために経営コンサルタントに依頼する。多くの場合は、経営者自身がその課題を認識しており、まず経営者との面談でその課題を打ち明けられる。課題の多くは、経営不振であったり、経営体制の未確立であったり、あるいは事業拡大の具体策の実行力不足であったりする。そこで、我々コンサルタントが会社に乗り込んで、課題を分析して、課題解決策を立案することになる。
課題解決策は、社内外の状況分析を行った上で、最適な手段と思われることを提案するのであるが、必ずしも、経営者に受け入れられる解決策でないこともあり得る。
実例を挙げてみよう。
ある製造業の例である。リーマンショック以降に受注が激減し、経営はますます苦しくなってきており、人員削減も行っている。生産拠点は3箇所ある。本社工場、地方工場、そして中国工場である。それぞれ、生産する品目は異なっているが、本社工場は基幹工場であり、付加価値の高い製品を担当し、設計機能も有している。中国では比較的安価な製品を担当しており、人件費の安さで何とか採算レベルは維持している。ところが、地方工場では、人件費を考えると採算レベルを下回っている。
このような状況で、我々コンサルタントが提案したのは、地方工場の閉鎖であった。
「御社の経営健全化には、地方工場の閉鎖と、そこでの担当製品の中国工場への移管は欠かせません」と経営者に何度も話し決断を促した。ところが経営者は、「うーん、その工場の家賃は格安でもあり、閉鎖してもなあ。熟練になった従業員も解雇しなければならないし」と、決断を行わなかった。結局、地方工場は存続したままで、その遠因もありコンサルタント契約は打ち切りになったのである。
要するに、経営者は、その工場に強い思い入れがあり、いくら閉鎖の正当性をデータで示しても、存続という予めの答えを持っていたのである。
コンサルティング会社を経営するという観点からは、いち早く経営者の意図(裏に隠された経営者の想いを含めて)を見抜き、その意図に沿った選択肢を提示して、その実行を着実に進めることが求められるのは言うまでもない。コンサルタントは「本当にこれが良い方向だろうか」という疑念を抱きつつも。
しかしながら、本当に対象となる企業を良くするには、多少は経営者の意図とは反することでも、信念を持って「この戦略を採るべきです。こうしなければ、今は良くても会社はダメになります」とコンサルタントは言えるだろうか? いや進言すべきだろうか? あまりに強く語気を強めると、経営者のコンサルタントへの信頼感を損ね、場合によってはコンサルタント契約が打ち切られることに繋がる。ここに、コンサルタントのジレンマが発生することになる。
これに対する正解はないとは思う。要は、コンサルタントの使命を何だと考えるかの問題であり、①経営者の身代わりになって、経営者の望む手段を実行する ②企業を良くし存続させるために、経営者の意図に反してでも経営状態を健全化するという選択の問題である。
私は、経営者に「ノー」と言える経営コンサルタントを目指しているが、どこまでそれが貫けるかについては、未だに確固たるものがない。
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