キャッシュレス決済導入シリーズ〜キャッシュレス決済は簡単だったが・・・
国を挙げて推し進めているキャッシュレス・消費者還元事業。しかし、目的も分からないまま踊らされているのでは、と不安を感じる方もいらっしゃることでしょう。今回はコンサルティングのプロの目線から、キャッシュレス・消費者還元事業についての考察を深めます。
今回の筆者:西村 伸郎(にしむら のぶお)講師
キャッシュレス決済でポイント還元
キャッシュレス決済が話題になっている。そこで私も今話題のスマホによるキャッシュレスレス決済を試みた。
我ながら少々せこいなと思ったが、ポイント還元され実質値下げになることを期待してのことだ。
今までもクレジットカード払いやSUICAのプリペイドカード払いなど数限りなくキャッシュレス決済を行っているが、これらは何故かポイント還元の対象外らしい。簡単なのはスマホによるキャッシュレス決済ということで、早速PayPayのアプリをインストールして、銀行口座を登録し口座から現金をチャージした。その後にファミマでキャッシュレスレス決済の買い物をした。ここまでは少々まごついた場面もあったがどうにか成功した。
キャッシュレス・消費者還元事業への疑問
10月1日からキャッシュレス・ポイント還元事業が始まり、この国が仕掛けた制度導入によって、これによって恩恵を受ける消費者のみならず、小売業者などが活気づいているのだ。
しかしながら、消費税が8%から10%に増税するタイミングに合わせて、キャッシュレス・ポイント還元事業が始まることが多方面から胡散臭いと思われている。というのも、そもそも消費税増税とキャッシュレス決済は何の関連もないはずだ。確かに消費税増税による消費者の負担を軽減するためという大義名分があるが、そのためには既に(一部では不評を買っている)軽減税率制度の導入が決まっているのに、さらに軽減策を講じる必要があるのかということだ。
キャッシュレス・消費者還元事業に投入される莫大な予算
キャッシュレスによる消費者へのポイント還元率は2~5%とされ、9か月限定とは言え、増税は2%なのに最大で5%も実質値引きするのだから、何のための増税なのかという訳だ。しかも、食品については増税がない軽減税率が適用されるのに、食品についてもポイント還元は適用される。
これらの施策に投じられる予算は総額2800億円に達する。ポイント還元に直接関わる費用だけでなく、これには小売店へのキャッシュレス導入支援金や政府広報費も含んでいる。これらは全て税金で賄われることは言うまでもない。さらに、先に述べたように、全てのキャッシュレス決済がポイント還元の対象とはならないことも納得しがたい面だ。
考察すべきポイントとは
すなわち、国は何としてもさらなるキャッシュレス化を進めたいので、消費税増税に合わせて、あるいは便乗して貴重な税金をばらまいているということだ。下図は各国のキャッシュレス決済の状況を表す。
日本ではキャッシュレス決済が18.4%となっているが、この比率には違和感を禁じ得ない。私自身が先月にイギリスに旅行したのだが、航空券、ホテル費用、レンタカー料金、レストランの食事は全て銀行振り込みもしくはクレジットカード払いだったし、電気製品や家具や書籍を購入する際に多くはクレジットカード決済を利用している。実感とはどうも一致しない。また、イギリスでスマホ決済をしている人は見かけなかった。
詳しくみると、この18.4%という数字には、銀行振り込みは含まれていないし、これらの分母となっている家計支出には「持ち家の帰属家賃」が含まれている。これは「持ち家を借家とみなした場合の家賃」のことで、総額で50兆円にも達するが、当然ながらこれには支出を伴っていない。さらに、この分母には法人間の支払いも含まれているということだった。すなわち、個人消費に限っては、18.4%程度ではないということだ。
読み取れる裏事情
どうもこれらの各国比較は、日本がキャッシュレス後進国と説明できるべく都合の良いような数字を並べているという気がする。どうしても、日本政府はキャッシュレス化を進めたくてたまらないのだ。
確かに、スマホ決済に限って言えば中国や韓国に大きく遅れをとっているのは事実だろうが、他の先進国に比べて遅れているとは言えないだろう。税金をつぎ込んでまでキャッシュレス・ポイント還元を進める理由が分からない。
とはいえ、考えられる理由として挙げられるのは、①オリンピック時の来日客の日本での買い物の機会を逃さないようにすること、②小売業界での人手不足を補うための決済作業の簡素化、③特定業界(例えばGAFAなどの世界企業に対抗しようとする日本国内の情報産業)の後押しなどだろう。キャッシュレス決済、とりわけスマホ決済によるその効果がどれほどかは不明だが、それでも一定の効果はありそうだ。政府も正直に、本当の導入の狙いを発表すれば良いのにと考えるのは私だけだろうか。
2019/09/20 西村伸郎
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