顧客満足につながる従業員満足とは

サービス業においてES(従業員満足)とCS(顧客満足)について語られることが多くなってきている。顧客満足を得るためにはサービスをする従業員がモチベーションを高く持っていなければならない。従業員が自分自身の仕事に誇りを持ち、楽しく仕事をしていなければ人を楽しませることは出来ないという考え方である。
だから、まず顧客満足を高めるためには従業員満足を高めることが重要であると言うことである。 恐らくこの考え方が徹底されている企業として有名なのは、リッツカールトンホテルであろう。
余りにも有名なクレド(全従業員が保持しているリッツカールトンにおけるサービスに対する信条のこと)には、「紳士淑女をおもてなしする我々もまた、紳士淑女である」とある。単なるサービスマンではなくお客様をおもてなしする紳士淑女として誇りと品格を持って欲しいという願いが込められている。また総支配人は、ホテルの中で最高のレストランは従業員食堂だと公言してはばからない。

従業員がやりがいを持って働くということ

外食市場は1997年の29兆円をピークに2006年には24兆円まで減少してきた。ここに来て下げ止まりの感はあるが、それはファーストフードやファミリーレストランの新規出店に伴う売り上げ増加が寄与していることが大きく、既存の飲食店について売上は減少傾向にある。
一方外食の市場規模が縮小していく中、ライバルである中食市場は拡大しており2006年には6兆円を超えた。女性の社会進出などから家庭内での調理機会が減少し、手軽に美味しい料理が食べられる中食の需要が増加していることが主な要因である。また、わざわざレストランで食べなくても、プロの料理を家庭で自分なりにアレンジしながら、友達を呼んで気兼ねなく楽しめるといった新たなライフスタイルに適合していることも需要が伸びている要因になっている。
更に、大手チェーン企業の動向がここに来て激しくなってきている。もともと外食産業において寡占化は進んでおらず、業界一位のマクドナルドでさえ売上高は4,000億円なので市場規模の1%程度に過ぎない。しかし、直近では日本レストランシステムとドトールの経営統合、吉野家のM&Aなど大手による合従連衡が盛んである。これは、これから起こるであろう人口減少による市場規模の縮小や消費者ニーズの多様化などに対応するための取り組みの一つであると考えられる。また、外食企業売上上位100社の売上高は1992年に3兆6千億円であったものが2002年には4兆9千億円と35%増大しており、外食市場に占める割合(上位集中度)も13%から20%へと上昇している。今後、大多数が中小店である構造は変わらないものの、売上が上位に集中していくことが予想される。
ますます、中小飲食店の経営は厳しくなることが予想されるのである。

飲食店の経営と男女の恋愛は一緒

さて、2002年の日経リサーチの調査によると、従業員満足を向上させるためには経営者のリーダーシップが一番重要であり、次に自分が提供した以上のベネフィットが得られることだという結果が出ている。ここで言うベネフィットとは、昇進や将来の報酬のみならず得られる経験や能力なども含む広い概念である。
この調査から分かることは、従業員の満足は昇進や将来の報酬など経済的報酬だけではないということである。むしろ、経営者のリーダーシップが発揮されており自社がどの方向に向かっていくのか、明確に分かることが従業員のモチベーションを上げていることが分かる。また、自分の経験や能力が高まることを実感できることが従業員のモチベーションを上げていることも分かる。
特に、比較的若い従業員についてはこの傾向が強いと感じている。毎年行う新入社員研修において20歳前後の社会人と話をすることが多いが、風評による弱々しく余り先を考えていない人物像を描いていたら、それはまったく裏切られた。
実は我々以上に将来を見据えた考え方と行動をとっていることがわかる。この世代はバブルを知らない。むしろバブル以降の親を見ているため、根本にはいつ会社から切られてもおかしくない危機感を共通して持っているようである。それ故、自分ひとりでも生きていけるような力や経験、能力を持ちたいという欲求が強いように感じることが多い。
このように、時代の流れもあり従業員は報酬のみならず自分の経験や能力が生かせて、経営者のリーダーシップが発揮されており将来のビジョンが明確な会社で仕事をするときにやりがいを感じるようである。

やり方によっては従業員満足が顧客満足につながらないことがある

ある小売業の企業において顧客サービスの向上を図ろうと、最近流行のCSとESの考え方を取り入れ、まず従業員が働きやすい環境を作ろうと取り組んでいた。その企業の経営者は、従業員の給与体系に目をつけた。どのように頑張れば給料が上がるのか、会社はどのような人材を必要としているのか、これらが明確に従業員に伝わり公平感があるように人事制度の評価と給与体系を整備した。
しかも、有給休暇もとりやすいように福利厚生も充実させた。
そのような取り組みを行って1年が経ったが、お客様アンケートの結果は相変わらずであった。若干は評価が上がったものの総体的には向上したとは言えなかった。
何故か。
経営者が自らこの人事制度を変える意義や会社の将来について従業員に熱く語ることをほとんど行わなかったからである。制度を整備すれば、報酬や待遇について従業員の不満を取り除くことをすれば従業員はやりがいを持って働いてくれるはずだと、この経営者は考えていたのである。
しかし、これらの取り組みは従業員の不満を減少させることには役立ったが、決して働きがいやモチベーションを高めることにはほとんど役に立たなかったのである。 従業員の満足は確かに顧客満足につながるであろう。しかし、この従業員満足の捉え方が間違っていると全く意味の無い取り組みになってしまうのである。

従業員満足が顧客満足につながるとき

従業員が感じるやりがいとは何か。モチベーションは他人からは与えられない。自分自身で向上させないといけない。だからこそ、従業員がどのようにしてモチベーションややりがいを感じるのか、注意深く見なければならない。それは一人ひとり異なるであろうが、これまで見てきたように経済的な報酬はそれに値しないということである。
やはり経営者がしっかりとしたビジョンを持ち、それを事あるごとに従業員に熱く語りかけ経営者が描き出す夢に共感を呼び起こすようなリーダーシップが非常に重要である。ベースにこれらのたゆまない取り組みがあり、従業員の夢や希望を実現するためにこの会社で何が出来るのか、自分にとってどのような経験や能力が得られるのか、これらを経営者としっかり共有化することが従業員の働きがい、満足度を高めることにつながるのである。こういった肌感覚のあるコミュニケーションをとるという組織風土があって初めて人事制度も生きてくるのである。
このような組織風土の中で従業員は、いつもお客様のことを考え、どうすればもっと喜んでいただけるのか、それを自発的に考え話し合うようになるのである。

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