戦訓にみる勝機(チャンス)の掴み方

勝機(チャンス)は放っておくと時間と共に小さくなり、やがて消えて
なくなる。危機(クライシス)は放っておくと時間と共に大きくなりやがて
破裂し取り返しのつかないことになってしまう。

「禍福はあざなえる縄のごとし」である。企業経営も同様で危機と
勝機がまるで縄をなうように連綿と続いている。

成功者もしくは勝者というのは、危機と勝機にいち早く気づき対処し
得た者のことであろう。

勝機の掴み方ということである。勝機は同じ時代の潮流の中にある
ということを考えれば大概のところでは平等的といって良いかも知れ
ない。なのに、同時代に生きる同世代にあって収入も名声も加えて
艶福すらも大いに不平等なのが人生である。

このことについて、多くの人は運、不運を上げる。人知の及ばぬ事と
諦めることで勝機を掴み損ねた己の不運を慰めるのである。それでは運・不運が全てかといえば、決してそんなことはあるまい。運(勝機)が
近づいていることに気づかずにいれば運は傍らをすり抜ていくだけだ。運ということは確かにある。

しかし、それは成功を形づくる要素の半分に過ぎない。運(勝機)に
際会したとき、どれだけ早く気づき対処し得たかが成功要因の
半分を占めることに気づいた者が勝機を掴むのである。運、即ち
勝機は時間と共に去って行く。

勝利の女神に後ろ髪は無い。

だから、足早に走り去ろうとする勝利の女神の後から髪に手を
かけて我が物にしようとしても無理なのである。勝利の女神は
一度去ってしまえば二度と戻らない。

「勝機を得る」は「時機を失しない」と同義語である。

例をあげたい。昭和十七年六月五日、開戦以来、連戦連勝を
続ける日本海軍は米海軍に止めを刺すべく、太平洋の洋心に
位置する米軍根拠地ミッドウェー島の攻略とその攻略時に出現
するであろう敵空母の撃滅を目的に作戦発起した。同海域での
バトルオーダー(戦闘編成)は決戦の主力である正規空母で
日本海軍は第一航空艦隊(南雲忠一司令官)の赤城、加賀、
第二航空艦隊(山口多聞司令官)の蒼龍、飛龍の四隻。対する
米海軍はエンタープライズ、ホーネット、ヨークタウンの三隻。
日本海軍は数の上での有利に加えて、ゼロ戦を中心とする
航空機の性能は米海軍のそれを遥かに凌駕していた。
パイロットの多くは日中戦争以来の歴戦の兵で錬度は申し分
なし。どう転んでも勝てる筈というのが大方の予想だった。

一方、劣勢を余儀なくされた米軍は日本軍の暗号解読に成功
しており、日本軍の作戦の全容をほぼ掴んでいた。しかし、
それは「日本軍の能力を知る限り、不可避の惨事を事前に知った
だけだった」という米海軍司令官ニミッツの言葉にあるように
日本軍の不利を指摘するものとはならなかった。同日、午前一時
三十分(ミッドウェー時間)、ミッドウェー島攻撃に向けて第一次
攻撃隊が飛び立った。第二次攻撃隊は出現する公算の高い
敵空母攻撃のために対艦装備(魚雷等)で待機していた。
第一次攻撃隊が空襲を行ったが、同島に敵機の影は無かった。
攻撃不十分と感じた友永飛行隊長は「第二次攻撃の要ありと
認む」と打電。受けた空母部隊の総指揮官である南雲長官は
再度同島を攻撃すべく第二次攻撃隊を魚雷から陸用爆弾へ
転換を命じたのである。そのため、各空母艦上は兵装転換の
ためにてんやわんやとなる。そこに、索敵中の偵察機から
「敵らしきもの十数隻発見」の報が入り、続いて「空母らしき
もの伴う」と続報がはいる。ここに敵空母の出現は疑いの無い
ものとなった。南雲長官は完璧な敵空母撃滅を期すために
再度の兵装転換を命じた。魚雷から陸用爆弾への転換に
一時間半を費やし、ついで陸用爆弾から魚雷に積み替える
には二時間を要する。

この間、敵である米海軍は何もせず待っていてくれただろうか、
否である。米海軍は日本軍の第一次攻撃隊発艦とほぼ
同時刻に全機に対して日本空母のみに向けて攻撃を指向
させたのである。二度に亘る兵装転換の混乱の最中に
米空母から発進した急降下爆撃が太陽を背に突っ込んで
来た。加賀、赤城、蒼龍が相次いで命中弾を受けた。
いずれもが兵装転換のため艦上に魚雷や爆弾が露出山積
しており、それらが誘爆を起こし瞬時に炎に包まれ、やがて
沈没した。残った飛龍は果敢に敵空母を攻撃、エンタープライズ
を大破に追い込むが又も米軍の攻撃を受け被弾炎上し海中に
没した。圧倒的優勢を誇り、負ける筈の無かった日本軍は
正規空母4隻を失うという大敗を喫したのである。

より効果の高い完璧な攻撃を指向するために時間を空費した
日本軍と劣勢ながら時を置かずスピーディーに全軍攻撃に
踏み切った米軍。双方の決断に対する依拠の違いが勝敗を
分けたのである。

勝利の女神は、しばしば、完璧さより素早を求める。環境が
激変する戦場にあって「兵は拙速を尊ぶ」という。

環境変化の著しい現代にあって「ファースト・イート・スロー」が
現実となっている。

だから、冒頭に申し上げた。危機は放っておくと大きくなり、
チャンスは小さくなりやがて消えてしまうと。

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