北海道発!カスタマーハラスメント防止条例で実現する新しい働き方改革
この記事の結論
北海道が制定するカスタマーハラスメント防止条例は、従業者保護と事業継続性の確保を目指す画期的な取り組みで、令和6年11月26日のに制定されました。条例では「我々の快適な暮らしは、それを支える物やサービスを提供する人々の存在があってこそ」という理念のもと、顧客等からの不当な要求や言動から従業者を守り、働きやすい環境づくりを推進します。令和7年4月1日の施行に向け、道・事業者・顧客等それぞれの責務を明確化し、具体的な防止策や支援体制を整備していきます。
この記事から学べること:
・カスタハラ防止に向けた具体的な法的枠組み
・事業者と従業者の権利保護の重要性
・多様な価値観を認め合う地域社会づくりの意義
・行政・事業者・顧客の三位一体での取り組みの必要性
この記事の筆者 鈴木 タカノリ
経営管理修士(MBA)。KDDIにてマーケティング、アプリ開発、販売店営業、営業企画を経験。クレーム対応のまとめ役として活躍し、「お詫び文」作成のスペシャリストとして社内外から高評価を獲得。KDDI在籍時、研修業務を通じて延べ500人以上のスタッフ育成に携わる。研修実施店舗では、年間20件の重篤クレーム発生を翌期からゼロに削減。組織でのファシリテーションなどコミュニケーションや会議進行にも深い知見を持つ。
現在、カスタマーハラスメント対策セミナー、顧客対応スキルセミナーを主宰。企業不祥事発生の究明などコンプライアンス関連の論文も多数執筆。実務経験と学術知識を融合させた独自の視点で指導を行う。
はじめに
近年、接客業界では従業者への理不尽な要求や暴言といった「カスタマーハラスメント」が深刻な社会問題となっています。特に北海道では、人口減少による働き手不足が深刻化する中、こうした問題による離職が事業継続の大きな障壁となっています。
「お客様は神様です」という考え方は、時として従業者の権利を軽視することにつながってきました。しかし、私たちの快適な暮らしは、サービスを提供する人々の存在があってこそ成り立つものです。
この条例は、顧客の正当な権利は守りながらも、従業者の尊厳を守り、お互いを尊重し合える社会の実現を目指しています。道内の事業者、顧客、そして道民全体で取り組む新しい働き方改革の第一歩として、大きな注目を集めています。
なぜ今、カスタマーハラスメント防止条例が必要なのか?
条例の背景と目的
北海道カスタマーハラスメント防止条例が生まれた背景には、いくつかの重要な社会課題があります。
- カスタマーハラスメントによる従業者への影響と離職問題
- 人口減少による働き手不足の深刻化
- 事業活動継続の困難化
- 快適な暮らしを支える従業者の重要性の再認識
これらの課題に対応するため、条例では「我々の快適な暮らしは、それを支える物やサービスを提供する人々の存在があってこそである」という理念を掲げています。この言葉には、サービス提供者の存在価値を改めて認識し、尊重しようという強い意志が込められています。
また、条例の目的は単に従業者を保護するだけではありません。「お互いを尊重し、多様な価値観を認め合う寛容な地域社会を築き上げる」ことも重要な目標の一つです。これは、北海道が目指す新しい社会のあり方を示す、非常に意義深い表現だと私は考えています。
条例の重要な定義
この条例を理解する上で、いくつかの重要な定義を押さえておく必要があります。
まず、「カスタマーハラスメント」とは何でしょうか。条例では、以下のように定義されています。
- 従業者等に対する顧客等からの社会通念上不相当な要求・言動
- 就業環境を害する行為
つまり、お客様からの無理な要求や、従業員の尊厳を傷つけるような言動が該当します。例えば、「お前なんか首にしてやる」といった脅迫的な発言や、深夜に長時間の対応を強要するなどの行為が挙げられます。
次に、条例における関係者の定義を見てみましょう。
- 顧客等:物品・役務の提供を受ける者、事業者の業務関係者
- 事業者:物品・役務提供事業を行う法人・団体・個人(非営利含む)
- 従業者等:事業者の役員・使用人等(直接契約関係の有無を問わない)
ここで注目すべきは、「従業者等」の定義が幅広いことです。正社員だけでなく、パート・アルバイト、さらには業務委託契約の個人事業主なども含まれます。これは、多様化する雇用形態に対応した、現代的な定義と言えるでしょう。
条例の基本理念と各主体の責務・役割
前節では、北海道カスタマーハラスメント防止条例の背景や重要な定義について説明しました。ここからは、条例の核心となる基本理念と、各主体に求められる責務・役割について詳しく見ていきましょう。
まず、この条例の基本理念は以下の3点に集約されます。
- 各主体(顧客等、事業者等、道民)の主体的取組
- 事業者等による従業者保護と良好な就業環境の維持
- 顧客等の正当な権利行使への配慮
これらの理念は、カスタマーハラスメント問題を社会全体で解決していこうという強い意志を表しています。特に注目すべきは、顧客と事業者、従業者のバランスを取ろうとしている点です。
例えば、2番目の「事業者等による従業者保護と良好な就業環境の維持」は、従業者の権利を守ることを明確に打ち出しています。一方で、3番目の「顧客等の正当な権利行使への配慮」は、顧客の権利も尊重することを示しています。これは、単に従業者を守るだけでなく、顧客と事業者、従業者の三者がWin-Winの関係を築くことを目指しているのです。
では、この理念を実現するために、各主体にはどのような責務や役割が求められているのでしょうか。
道の責務
まず、北海道には以下の責務が課せられています。
- 施策の策定・実施
- 市町村支援
具体的には、カスタマーハラスメント防止に関する指針の作成や、相談窓口の設置、啓発活動の実施などが挙げられます。また、各市町村が独自の取り組みを行う際のサポートも重要な役割となります。
顧客等の責務
顧客等に求められる最も重要な責務は、言うまでもなく「カスタマーハラスメントの禁止」です。しかし、これは単に「やめましょう」と呼びかけるだけでは不十分です。顧客一人ひとりが、自分の言動が従業者にどのような影響を与えるかを考え、相手の立場に立って行動することが求められます。
例えば、レストランで料理が遅れた場合、「何やってんだ!」と怒鳴るのではなく、「少し遅れているようですが、状況を教えていただけますか?」と冷静に尋ねる。このような小さな心がけが、快適な社会づくりにつながるのです。
事業者の責務
事業者には、「防止取組の主体的実施」が求められます。具体的には以下のような取り組みが考えられます。
- 従業者向けの研修実施
- カスタマーハラスメント対応マニュアルの作成
- 相談窓口の設置
- 顧客への啓発活動
特に重要なのは、カスタマーハラスメントが発生した際の対応です。「お客様は神様」という考えから、従業者に我慢を強いるのではなく、毅然とした態度で顧客に対応することが求められます。
事業者団体の役割
事業者団体には、「構成員への支援」が求められます。個々の事業者、特に中小企業では、カスタマーハラスメント対策に十分なリソースを割くことが難しい場合があります。そこで、業界団体などが中心となって、以下のような支援を行うことが期待されます。
- 業界全体での研修会の実施
- 対応マニュアルのひな形作成
- 相談窓口の共同設置
- 優良事例の共有
このような取り組みにより、業界全体でのカスタマーハラスメント防止レベルの底上げを図ることができます。
道民の役割
最後に、道民には「理解促進」の役割が期待されています。カスタマーハラスメントは、加害者にその自覚がない場合も多いのが現状です。そのため、道民一人ひとりが問題の重要性を理解し、日常生活の中で実践していくことが求められます。
例えば、家庭でカスタマーハラスメントについて話し合ったり、SNSで関連情報を共有したりすることも、理解促進の一助となるでしょう。
以上のように、北海道カスタマーハラスメント防止条例は、社会全体でこの問題に取り組むことを目指しています。一人ひとりが自分の役割を認識し、行動することで、「お互いを尊重し、多様な価値観を認め合う寛容な地域社会」の実現に近づくことができるのです。
次節では、この条例に基づく具体的な施策や推進体制について詳しく見ていきましょう。
条例の実効性を高める具体的な施策と推進体制:カスタマーハラスメント防止への道筋
ここまで、北海道カスタマーハラスメント防止条例の背景や基本理念、各主体の責務について詳しく見てきました。では、この条例を実際に機能させるために、どのような具体的な施策が計画されているのでしょうか?また、それらをどのように推進していくのでしょうか?
まず、北海道が取り組む具体的な施策には以下の6つがあります。
- 指針の作成・公表
- 情報収集・提供
- 相談支援体制整備
- 人材育成・確保
- 啓発・教育活動
- 関係機関との連携
これらの施策は、カスタマーハラスメント防止に向けた総合的なアプローチと言えるでしょう。例えば、指針の作成・公表は、事業者や顧客が具体的にどのような行動を取るべきかの道標となります。「これって、カスタハラになるのかな?」と迷ったときに、この指針を参照することで適切な判断ができるようになるのです。
また、相談支援体制の整備は非常に重要です。カスタマーハラスメントの被害に遭っても、「言いづらい」「相談しても解決しないのでは」と思い、一人で抱え込んでしまう従業者も少なくありません。安心して相談できる環境を整えることで、問題の早期発見・解決につながるでしょう。
特に注目したいのが、人材育成・確保の施策です。カスタマーハラスメント対策には、専門的な知識や対応スキルが必要です。北海道では、この分野のエキスパートを育成し、各事業者に派遣するなどの支援を行う予定です。
例えば、小さな飲食店を経営しているAさんを想像してみてください。Aさんは従業員を大切にしたいと思っていますが、カスタマーハラスメント対策の具体的な方法がわかりません。そんなとき、北海道が育成した専門家が店舗を訪問し、具体的なアドバイスをしてくれるのです。「こんな場合はこう対応すると良いですよ」「従業員への研修はこんな内容で行うといいでしょう」など、実践的なサポートを受けられるわけです。
これにより、中小企業など独自の対策が難しい事業者でも、効果的な防止策を実施できるようになるでしょう。
次に、これらの施策を効果的に推進するための体制について見ていきましょう。条例では、以下のような推進体制が定められています。
- 北海道カスタマーハラスメント対策推進協議会の設置
- 年次報告の義務付け
- 財政措置の実施
中でも重要なのが、「北海道カスタマーハラスメント対策推進協議会」の設置です。この協議会には、事業者団体、労働組合、消費者団体、学識経験者など、多様な立場の方々が参加します。
例えば、ある施策を検討する際、事業者側からは「こんな対応は現実的に難しい」という意見が出るかもしれません。一方で、労働組合からは「従業員の保護のためにはこれくらいは必要」という主張があるかもしれません。そんな時、消費者団体や学識経験者が中立的な立場から意見を述べることで、バランスの取れた施策が生まれるのです。
様々な視点から意見を出し合うことで、より効果的な対策を立案・実施することができるのです。
また、年次報告の義務付けは、PDCAサイクルを回す上で重要な役割を果たします。毎年の取り組み状況や課題を明らかにすることで、次年度の施策をより効果的なものに改善していくことができるでしょう。
「去年はこんな課題があったけど、今年はこう改善しました」「この施策は効果が高かったので、来年はさらに拡充します」といった具合に、常に進化し続ける条例になるのです。
さらに、財政措置の実施も見逃せません。カスタマーハラスメント対策には、一定のコストがかかります。研修の実施や相談窓口の設置など、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。そこで、北海道が財政的な支援を行うことで、より多くの事業者が積極的に対策に取り組めるようになるのです。
最後に、この条例の施行時期と見直しについてお話ししましょう。条例の施行日は令和7年4月1日と定められています。ただし、これで終わりではありません。施行後3年を目途に必要な措置を検討し、その後は5年ごとに見直しを行うことが決められています。
これは非常に重要なポイントです。社会情勢や働き方は刻々と変化しています。例えば、新型コロナウイルスの流行により、テレワークが急速に普及しました。そうすると、オンライン上でのカスタマーハラスメントという新たな問題が生まれるかもしれません。
また、AIやロボットの進化により、接客の形態が大きく変わる可能性もあります。そうなると、カスタマーハラスメントの形態も、時代とともに変わっていくでしょう。定期的な見直しを行うことで、常に実効性のある対策を維持できるのです。
以上、北海道カスタマーハラスメント防止条例の具体的な施策と推進体制についてお話ししてきました。この条例は、単に法律を作って終わりではありません。継続的な改善と実践を通じて、より良い社会を作っていくための仕組みなのです。
私たち一人ひとりが、この条例の理念を理解し、日々の生活の中で実践していくことが大切です。お客様として店舗を利用する時、従業員として接客する時、経営者として事業を運営する時、それぞれの立場で「お互いを尊重し、多様な価値観を認め合う」という姿勢を持つことが、カスタマーハラスメントのない社会づくりの第一歩となるのです。
まとめ:カスタマーハラスメント防止で実現する新しい北海道の姿
さて、ここまで北海道カスタマーハラスメント防止条例について詳しく見てきました。最後に、この条例が目指す北海道の未来像について考えてみましょう。
この条例が目指すのは、単にカスタマーハラスメントをなくすことだけではありません。より大きな目標として、「お互いを尊重し、多様な価値観を認め合う寛容な地域社会」の実現があるのです。
これは、北海道だけでなく、日本全体が抱える大きな課題でもあります。人口減少や高齢化が進む中、外国人労働者の受け入れや女性の社会進出など、多様な人材の活躍が不可欠となっています。そのためには、異なる背景や価値観を持つ人々が互いを尊重し合える社会づくりが必要不可欠なのです。
カスタマーハラスメント防止の取り組みは、その第一歩と言えるでしょう。お客様と従業員、事業者が互いの立場を理解し、尊重し合う関係を築くことで、より良いサービスが生まれ、結果として北海道全体の魅力向上につながるのです。
例えば、観光業を考えてみましょう。北海道は自然の美しさや食の魅力で多くの観光客を惹きつけています。しかし、それだけでは真の「おもてなし」とは言えません。観光客と地元の人々、そして観光業に携わる従業員が互いを尊重し合える関係があってこそ、心に残る観光体験が生まれるのです。
カスタマーハラスメント防止の取り組みは、そんな「心のバリアフリー」を実現する重要な一歩なのです。
また、この条例の取り組みは、働き方改革の推進にもつながります。従業員が安心して働ける環境を整えることで、離職率の低下や生産性の向上が期待できます。結果として、北海道の産業全体の競争力強化にもつながるでしょう。
さらに、この条例の理念は、ビジネスの場面だけでなく、日常生活のあらゆる場面で活かすことができます。例えば、学校でのいじめ防止や、地域コミュニティでの世代間交流など、様々な場面で「互いを尊重し合う」という姿勢が浸透していくことが期待されます。
このように、北海道カスタマーハラスメント防止条例は、単なる「ハラスメント対策」を超えた、新しい社会づくりの指針となる可能性を秘めているのです。
ただし、条例の制定だけで全てが解決するわけではありません。条例の理念を実現するためには、私たち一人ひとりの意識と行動が重要です。日々の生活の中で、「相手の立場に立って考える」「多様性を尊重する」という姿勢を持ち続けることが大切です。
そのためには、継続的な教育や啓発活動が欠かせません。ジャイロ総合コンサルティングでは、カスタマーハラスメント防止に関する研修プログラムを提供しています。この研修では、カスタマーハラスメントの具体例や対応方法はもちろん、「互いを尊重し合う」コミュニケーションのあり方について、ワークショップ形式で学ぶことができます。
条例の理念を自分事として捉え、日々の行動に反映させていくことで、北海道はより魅力的で住みやすい地域になっていくでしょう。そして、この取り組みが全国に広がることで、日本全体がより寛容で多様性に富んだ社会になっていくことが期待されます。
カスタマーハラスメント防止は、決して特別なことではありません。「思いやり」と「尊重」という、人として当たり前の姿勢を社会全体で再確認し、実践していく。そんなシンプルだけれど大切な取り組みが、北海道から始まろうとしているのです。
私たち一人ひとりが、この条例の理念を理解し、日々の生活の中で実践していくことで、カスタマーハラスメントのない、誰もが安心して暮らせる北海道の実現に近づいていけるはずです。そして、その取り組みが全国に広がり、日本全体がより良い社会になっていく。そんな大きな可能性を秘めた条例だと言えるでしょう。
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