危機管理の本質とは(3) 災害イマジネーションを鍛えるためには?

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■もしエレベーターに閉じ込められたら?の答え
前回は、「もし、あなたが超高層ビルのエレベーターに
乗っていて首都直下地震に急襲されたら、どうしますか?」
という問いで終わった。

では、正解を言おう。答えは、「エレベーターのすべての階の
ボタンを押し、停止した階で開いた扉から速やかに脱出する」
が正しい。ただし、これは前回も伝えたように、最新のエレ
ベーターで監視装置がついていて非常電源装置が付いていれば
のことである。読者には声を大にしてお伝えしたい。必ずしも
エレベーターが最寄り階にきちんと停止して、扉が開くという
保証はないことを肝に銘じてほしい。

驚くなかれ、前回伝えた通り、実際には、大阪北部地震では
339件もの閉じ込めが発生し、通報を受けてから最大320分
もの間閉じ込められていた例がある。平均は約80分で、
約180分で90%は解消したとされる。3時間もの間、あの狭い
空間に閉じ込められるかと思うとぞっとする。
しかし、これは事実である。

■災害イマジネーションを鍛えるためには?
では、災害イマジネーションを鍛えるためにはどうしたら
いいのだろうか?

皆さまは、「天災は忘れた頃にやってくる」という警句を
ご存じであろうか。物理学者寺田寅彦によるとされる“あれ”
である。しかしながら、実は、寺田寅彦の随筆を探しても、
この警句は見当たらない。おそらく弟子たちが伝えたので
あろうが、それにしても、である。これ程までに私達が如何に
忘れやすい存在であるか、そして自然現象が如何に忠実に
繰り返されるかを的確に表現している警句はないであろう。
弟子たちによれば、寺田はよくこの言葉を口にしていた
ようなのだが…。

この警句が示すように、私達は、自然災害に襲われても、
直ぐに忘却してしまう存在である。現に、既に10年以上が
経過した東日本大震災のことはもう忘却の彼方にあるのでは
なかろうか? 阪神淡路大震災に至っては来年で30年になる。
東日本大震災の教訓を語る際には、明治29年(1896年)に
発生した明治三陸地震で約2万2千人もの犠牲者を出した
ことを忘れてしまったのでいたのではないか、といった意見も
あった。たった100年そこそこ前のことでさえも私達は忘れて
しまう存在なのである。石碑に、ここより下に建物を建てる
なかれ、と先達が警告していたにもかかわらず、である。

このように、つい10年前の大災害さえも忘れてしまう私達は、
残念ながら、災害時を想定した訓練を実施する以外に災害
イマジネーションを鍛える術を持たない。その訓練方法として
東京大学生産技術研究所の目黒教授が開発したのが、
目黒メソッド及び目黒巻である。

目黒メソッドや目黒巻を使うことで、災害イマジネーション、
すなわち、刻々と変わる災害状況下で何が起こりそうか、
どんな状況になるかを先読みする力を養うことができる。

■災害イマジネーションを養成する目黒メソッド・目黒巻とは?
下の表をご覧いただきたい。この表の縦軸は一日の時間と
各時間帯の行動パターンが記載されている。

※出典:内閣府「間違いだらけの防災対策第3回:防災情報のページ」
https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h22/05/taisaku.html

目黒メソッドの第1の手順は、自分の行動パターンを詳細に
記載するとこからから始まる(左側の表)。

例えば、何時に起床し、交通手段として〇〇を使って通勤して、
出社後○○業務を行い、何時に帰宅して、何時に就寝する、
という具合に一日の行動パターンを詳細に記載する。

次に、例えば、地震が発生した場合を想定し、各行動パターンの
時間帯の箇所に、発災後の経過時間、例えば、1分後、○時間後、
〇日後、○週間後、○ヵ月後、○年後、にそってそれぞれのマス
(A1 あ、B1 あ、…とか)に、自分の周辺で起こるであろう
ことをイメージして一つひとつ書き出す。
実はこれが、最初は書けない。

何故それが分かるというと、この目黒メソッドや目黒巻の
基本コンセプトを用いた画期的なeラーニングコンテンツを
開発し、実際に受講者に、災害発生後の状況を記載して
貰ったのだが、記述がほとんどない、ないしは記述が少ない
場合が多く、こちらが期待した災害発生後の状況を詳細
ないし刻銘にイメージできた受講者が少なったからである。

ところが、いつもどんなことが起こるだろうかと考えていると、
少しずつイメージできるようになる。このプロセスが重要で、
こうして自分の頭で考えることで初めて当事者意識が醸成
される。決して与えられたマニュアルを見ただけでは、なぜ
そのような行動を取る必要があるのかを理解できず、主体的に
判断する力は育たない。目黒メソッドの優れた点はここにもある。

最後に、事後のイメージが作成出来たら、今度は、災害が発生
する前に地震の影響を最小化するために何ができるかを考える。
時間軸を逆にして考えるのである(右側の表)。

地震発生までに○年、○ヶ月、○日、○時間、○分、〇秒
与えられたとしたら、地震の影響を最小化するために何が
できるかを考える。このようにして、地震発生までの時間を
いかに有効に活用するかを考えることができる。

災害発生後と災害発生前にどんなことが起こりそうかを考える
ことで、災害イマジネーション力を向上させ、地震発生前の災害
対策と地震発生後の災害対応を考えることができる。この目黒
メソッドをより簡易に取り組めるように開発されたのが
目黒巻で、発災後にどのような状況になり、その時どう行動
するのかを考えることで、災害イマジネーション力を養成する
ツールである。発想は一緒である。目黒メソッドも目黒巻も
想定外を少なくするための画期的なツールと言える。

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