顧客視点の販売能力とは(3)

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販売能力の本質とは

商品知識がほとんど無い新人の販売員が、とても優秀な売上成績を伸ばしている光景はよくあることである。いったい、なぜこのようなことが起きるのか。それは、顧客の声に耳を傾けているからである。いや、商品知識が貧弱なため、傾けざるを得ない状況であるとも言える。
商品についての知識がないものだから、むしろその話は極力避けて、購入の動機や利用目的などいわゆる世間話を中心に会話を組み立てざるを得ない。しかし、この聴くスキルこそが顧客の視点に立った販売員の販売能力なのである。

このような新人時代の現象は、販売員であれば誰もが一度は経験しているはずである。しかし、時を経て次第に商品知識が深まり、自分に自信を持つようになればなるほど、顧客の声に耳を傾けなくなる。販売に対する勉強をすればするほどこのような傾向になることが多いのは悲劇的である。販売員に求められているのは、顧客の望む情報を的確に与えることであって、商品の説明を十分に行うことではない。

顧客がどのような情報を望んでいるのかをまずしっかりと把握することが重要なのである。

そのために必要なのは、単純な質問のスキルである。

つまり、「どのような情報が欲しいのですか」と聴く姿勢、それだけである。

しかし、残念ながらこれほどまでに単純な質問をできる販売員はほとんど皆無である。その理由は、顧客の質問内容を信じ込むという錯覚に陥っていることや、顧客は高度な商品情報の提供を望んでいると思い込んでいることなどである。確かに顧客の商品知識は上がりつつあるが、それは少数派であると考えて良いだろう。

大多数の顧客は、それほど商品に関する知識を持ち合わせているわけではない。また、必要以上の商品の説明を望んでいるわけでもない。むしろ、あまりに多くの機能がついているため、商品説明は極力簡素にして、自分には一体どのようなものが最適なのかを利用目的に従って選んで欲しいという考えすらある。

これらは、「顧客の視点」が欠けていることに起因する販売員の思い込みが原因である。

今後の販売員に求められるもの

販売員の商品知識は非常に向上している。しかし、販売員の販売能力は変わっていない、あるいはむしろ低下したと考えることができる。

顧客が物を買うということは、いわば問題解決行動である。顧客は何かしらの問題を解決するために、商品を購入するのである。
だとすれば、顧客がいかなる質問をしようが、仮に価格について問う質問であったとしても、「何に対して困っているのか、あるいは、どのような目的でこの商品が必要なのか」を十分に聴くことがまずは始まりである。そのような質問を顧客に対して行うことを失礼だという認識をする販売員もいるが、それは大きな間違いである。顧客が販売員に声をかけるというのは大変なストレスであり、顧客によっては勇気も必要だ。

そのような顧客の行動を受け止め、販売員はしっかりと顧客の視点に立って、顧客が物を買いやすいように導く必要がある。顧客も販売員からの的確な質問を望んでいるのだ。その質問内容が的確でないがために、インターネットに客足を奪われていることにも繋がっているのだ。「店員対応がなく、煩わしくないから」という意見は、販売員に対する失意の意味合いが強いが、裏を返せば販売員に対する期待の現われでもある。

真剣な顧客であれば、実物を見て、販売員からしっかりと話を聴いて、そして納得して購入したいものである。しっかりと自分の話を聴いてくれ、的確な情報を与えてくれる販売員がいれば、顧客はわざわざインターネットで安いものを買うということもないだろう。店舗に出向くためには、いくらかの買物費用を負担しているはずであり、やはりその場で商品が欲しいのが本音である。そして、自分のことをしっかりと知ろうとしてくれた、知ってくれた販売員がいるのに、わざわざ他の店舗でまた同じ話をして価格交渉をすることもないであろう。

顧客の視点に立った販売能力とは、自分が顧客だったらどういう対応をして欲しいのだろうか、と考えることである。もっと言えば、どういう販売員(あるいは状況)だったら自分は買うのだろうか、を追求することである。そこには、やはり自分のことをしっかりと分かってくれて、そして必要な情報を的確に提供してくれる販売員の姿が思い浮かぶはずだ。だとすれば、そこには質問のスキルと聴くスキルが重要な要素になる。そして、それらのスキルを駆使して、時に情報を提供し、時にジョークを交えながら、顧客とのコミュニケーション(意志疎通)の活性化を図る。そして、お互いのメリットを確認して、初めて取引が成立する。これは、交換を含めた売買の原則であり、昔から行われてきたものなのである。これにより、販売員は顧客に対して物を販売するだけではなく、販売員が中心となって顧客のコミュニケーション能力を引き出すことも可能と
なる。

インターネットでの購買額が増えるのは悪いことではない。しかし、それを現在の販売員が助長しているとしたら、課題として捉えてみることも必要である。顧客も販売員との会話を楽しみながら商品を選択したいという欲求はあるだろう。そして、高齢化が進む中、インターネットの利用頻度が低い高齢者が自分の欲しい商品を安心して購入できるリアル店舗は今後ますます重要性が高まる。そのためには、顧客の視点に立った販売能力を持つ販売員の育成が急務である。

参考文献

○「販売士検定試験2級ハンドブック」株式会社カリアック発行
○「平成19年通信利用動向調査報告書」総務省
○「平成19年度我が国のIT利活用に関する調査研究事業(電子
商取引に関する市場調査)報告書」経済産業省

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