新規事業開発は思いつきで成功する
かつて大企業を中心に、社内ベンチャー制度が多く生まれ、それらから生まれた新規事業が、ことごとく失敗したのは記憶に新しい。失敗の
原因は、企業内で雇用と給料が保証された正社員では、どうしても
経営姿勢の甘えが生じ、本当の意味でのベンチャー精神に欠けて
いたからだと言われている。本当にそうだろうか。
大企業に限らず、中小企業でも新規事業開発という魅力的な言葉に
惑わされる経営者は多い。多かれ少なかれ、多くの経営者は新規事業
を強く意識している。しかしながら、新規事業を育て、本業に代わる
事業にまで育て上げた経営者は数少ないのではないだろうか。
一方で、ほとんど無一文から事業を開始し、立派に収益が出ている
企業にまで育て上げた経営者は多くいる。この違いは何が理由なの
だろうか。ここに新規事業開発の進め方の鍵が隠されているように
思う。
ある建設業者と知り合った。例によって、建設業は苦境の真っ只中に
ある。そのような中で、その社長(Sさん)はあっさりと社長の座を降り、代表権のない会長に就任した。どこかの国の総理大臣のように、
途中でいやになってその地位を投げ出したのではないようだった。
Sさんは、その建設会社の創業者である。その創業者が60歳を期に
あっさりと本業から足を洗った。息子さんもいるのだが、現在はその
企業の一社員で、役員でもない。
Sさんの新しい仕事は、新規事業を見い出し、その新規事業を本業に代わる事業にまで育てるということだった。彼が目をつけた新規事業
とは、本業の建設業とはほとんど関連がない事業であり、新原理の
燃料油を製造販売するというものであった。まだまだ将来の見通しは
立っていないが、私は成功すると直感している。新規事業の内容に
関しては、ここで詳しく説明することはできないが、技術の素性、顧客
獲得の見込み、社会的な背景などから見込みのある事業だと思って
いる。
Sさんはこの事業をじっくり考えて選択した訳ではないという。どこかで
開催されたセミナーで、このような新技術、新事業の話を聞きつけ、
興味を持ったという。というのも、Sさんは、燃料関連の知識はほとんど持っておらず、ましてや技術者でもない。単なる思いつきに過ぎない
様子なのだ。
Sさんの新規事業に対する熱意や思い入れに、社内外を問わず賛同者も多数現われ、現在では、3名程度の社内プロジェクトで工場建設計画
や営業活動計画を昼夜を問わず立案している。またSさんは、積極的に本業で培った地元企業トップや自治体担当者と関係構築に日夜を
費やしているとのことで、現在では顧客になっても良いという会社が
複数存在している。
このような状況はどのようにして生まれたかと言えば、Sさんの懸命になって新規事業に取り組む姿に、社外の賛同者が多数現われ、地元
企業を中心に一体となって支援するという体制が自然に生まれ、
これがさらにネットワークを広めたということだと思う。もちろん、新規
事業の中身、事業の素性の良さ、基本計画の確からしさも相まって、
賛同者が生まれているという状況だと思われる。
このような本業とは直接関連がない新規事業開発では、自社内の力
だけで育てられるものではない。得てして、特に大企業の進める新規
事業では、自社内で検討を進め、自社内で計画を立案し、顧客開拓も自社企業の名前を使って進める傾向がある。このような進め方では、成功は覚束ないのは当然とも言える。
Sさんの例では、地元では成功した経営者という評判と、そのネット
ワークを使えたという有利な条件があったことは事実だが、要するに、いったん元の企業とは縁を切り、社外に人脈を求め、熱意と粘り
強さを発揮して、社外へ出て行くという姿勢が成功の秘密のよう
である。
退路を断つということは、元の企業の資産を使わずということである。
成功の秘訣はもちろんそれだけではなく、確実性のある骨太の計画と、本人の熱意と説得力が必要であることは言うまでもないであろう。
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