事業承継と経営革新(イノベーション)

事業承継に経営革新(イノベーション)が必要である理由について、弊社の大木顧問にインタビューを行いました。

大木 ヒロシ(おおき ひろし)顧問

 

事業承継に一番大事なのは、変わること

事業承継してから5年後に業績が上がっている会社は、全体の3割です。残りの7割は業績が下がっているか現状維持に留まっています。つまりは上手くいっていないということです。以前も別の記事でお話ししましたように、事業承継に一番大事なのは変わることすなわちイノベーションを実施することです。事業を譲る時に業績が伸びているケースは少なく、業績が伸びている時はなかなか継がせる側が譲りたがらないというのが実情です。

時代はどんどん変わっています。それと共に技術(テクノロジー)も変わります。イーコマースのような電子取引や、ツイッターなどのSNSを使用した広告宣伝技術、AIの活用などが多くなっています。時代が変われば、経営環境は必ず変わっていきます。それに沿って会社は経営を革新していく必要があるのです。でなければ業績を上げる事は難しい。

もちろん、経営理念(創業者の気持ち、思い入れ)は変えるべきではありません。理念は先代の経営者から受け継いだお客様や世の中に対する想いです。正しい想い方をしてきたからこそ、会社が続いたと言えます。ですから理念は守るべきですが、時代に合わせてやり方(経営戦略)は変えるべきです。ハート(心)は変えるべきではないが、マネジメントは変わる必要がある。そうでなければ会社は時代に適応できません。

 

時代に適応する=会社を進化させる

進化は適応であり、適応はある意味現状否定です。企業も変化に適応することで進化します。

動物では、適応できなかった動物は化石になりました。人類で言えば、我々現在の人間はホモ属の中のホモ・サピエンスです。太古の昔には10種以上のホモ属がいましたが、その中で最終的に残っているのはホモ・サピエンスだけです。他の種族はホモ・サピエンスの持っている能力に滅ぼされました。

地球の環境変化があり、ホモ・サピエンスの民族大移動であるグレート・ジャーニーが始まりました。そしてネアンデルタール人などの他の種族と出会います。他の種族はホモ・サピエンスに比べて、環境変化に対応する術を学びきれなかったのでしょう。ホモ・サピエンスは「集団」という力を持っていました。無いものを信じる力があったのです。手元にあるバナナを神に捧げると、来年はもっと大きなバナナが実ると信じることができたのです。「信じる力」が集団化の始まりです。ホモ・サピエンスは適応する能力があったために生き残りましたが、他のホモ属は滅びてしまったのです。

適応能力(自己革新能力)はすごく大事なことです。時代の変化、環境の変化に適応できなければ、種は滅びます。もちろん、企業とて同様です。

 

事業承継側の大きな問題

会社が時代に適応するためには、ハートは変えずに、新しいテクノロジーに適応することです。ここで継承する側に大きな問題があります。中小企業の社長は一家の主みたいなもので、多くの場合、社長とすれば会社は自分で創ったと認識しているものです。人は自分と同じことを考えている人の方が可愛いものです。自分の言うことをよく聞く、言う通り・思っている通りに考えている人に継がせたいと考えてしまいます。反対する人は可愛とは思えない。しかし、高齢の社長と同じことを考えているということは、既に時代にずれていると考える必要もあります。私自身が、跡をついてくれた新社長の渋谷は飛び道具(SNS)ばかり使っていてしょうがない、と思うことがありますが、ツイッターで一万六千人以上の方からフォローを獲得しており、先日開催した講師養成セミナーではほとんどお金をかけずに60人のお客様にお集まり頂きました。無料のセミナーではありましたが、これは大変な成果だと考えております。古くからの社長にとってツイッターなどのSNSはわけのわからないもの、飛び道具のようなものです。飛び道具ばかり使っていてはハートの欠片も無いのかのように思えることもあります。しかし、もしもSNSもわからないような若い人がいたとして会社を継がせたなら、会社の成長は期待できません。自分がヨボヨボとしているのにヨボヨボと歩いている人にバトンを渡しても、同じようにヨボヨボとしか歩けません。今の時代を走り抜けていくような、自分とは全然違う人、バトンを渡す側が羨ましいくらい、ある意味憎らしいような相手にバトンタッチしていくことが大事です。そのような人は自分とは違う可能性を持っており、新たな成長エンジンになる可能性が高いのです。

 

エスカレーション・オブ・コミットメントという罠

事業を継ぐ側で親父の言う通りにするから継がせてもらえる、継がせる側で言う通りになるから継がせる、というケースがあります。これは時代環境変化を無視した考え方になっおり、気がついたら事業承継5年後には7割の会社の業績が悪くなっているのです。経営的な見地から言いますと「エスカレーション・オブ・コミットメント」という言葉があります。賞味期限の切れてしまった経営戦略にずっとコミットメントしていき、それがどんどんエスカレーションしてしまうものです。現在業績が伸び悩んでいるとすれば、社長の経営戦略は賞味期限が切れている可能性が高い。賞味期限の切れた経営戦略にこだわり続けても絶対に業績は伸びません。コストばかりがかかり、お金がどんどん出ていって最終的には入って来なくなってしまう可能性すら有り得ます。経営は入ってくるお金が多くて出ていくお金が少ないことが利益を出す最も重要なポイントです。そうしないと社長になれない、取締役になれないからといって、古い社長の考え方にコミットしていく。それがエスカレートすると、結果的に時代に合わないから業績は伸びず、お金が出ていくばかりで入って来なくなるということです。

 

エスカレーション・オブ・コミットメントの実例

思うに、シャープは素晴らしい企業でした。コマーシャルが垢抜けていて、製品は洗練されており、確かに「目のつけどころが」抜群の会社だと思っていましたが、今となっては、台湾のホンハイという企業に買い取られてしまいました。シャープは早川さんという方が創った会社です。ですが日本の会社ではなくなってしまいました。とても残念です。

シャープが一番伸びたのは液晶アクオスの事業です。町田さんという方が社長の時に亀山工場を造って大成功しました。非常に大きく業績を伸ばしました。町田さんは社長を引退しましたが、その後、拙いことに院政をしきました。旧社長会を作って、何事も町田さんにお伺いを立てるしくみになってしまったのです。そして新しく就任した社長に対して「液晶の次は液晶。液晶でうちは稼いだ」と指示することが多く、結果的には液晶からの革新ができ難く、結果的には後発の韓国の企業、LGやサムスンとの価格競争に巻き込まれ収益性を損なってしまった。結果的に経営が悪化して負債が大きくなり、ホンハイに買収されたのです。

 

沈んだコストに拘らないことの大切さ

サンクコストという言葉があります。サンクはSunk、沈んだという意味です。極端な例えですが一千億をかけてジェット戦闘機を納入するために新しい戦闘機を開発するとします。いよいよ完成する段階で、つぎ込んだ資金は六百億、あと四百億投入する予定です。しかし調べたところ競合他社が既に同じような性能の戦闘機の開発に成功していました。あと二割で完成しますが、競合相手は納入の営業に取り掛かっています。この場合、残りの四百億を投入したら、間違いなく失敗します。既に沈んでしまったコストに拘るな、という例です。これもまたエスカレーション・オブ・コミットメントの一種です。事業承継で考えたいのは新しい社長に譲るのは会社を新しくするためであること、新しい時代に沿った経営革新(イノベーション)が社長の使命だと私は考えます。既にかけてしまったコストに拘ってエスカレーション・オブ・コミットメントのような状況が起こると、5年後には7割の会社が業績を悪化しています。6割以上で過半数ですから、7割ということは、ほとんどの会社がダメになっているということです。そこにはこのような理由があると推測できます。継ぐ側も継がせる側も間違いがあったということです。30年も40年も経った戦略は賞味期限が切れています。ハートは維持するべきです。しかしやり方は時代に沿っていくために、継ぐ側に任せるべきです。継ぐ側が意思を捻じ曲げて、継がせる側に合わせてはいけません。

 

「老舗は変わらないから老舗」はウソ

老舗というものは変わらなかったから老舗なのではありません。時代に沿って上手く変わっていったから、事業を維持できたことで老舗になったのです。羊羹で有名な「とらや」は六百年も続いています。羊羹と言えば緑茶が合っています。ですが「とらや」は時代に沿って紅茶やコーヒーにも合う羊羹(ラムレーズン)等を開発し老舗の地位を維持しています。羊羹というハートは変えずに、ラムレーズンの羊羹のようにコーヒーに合う新商品を開発し、さらには『トラヤカフェ』を造りました。さすがだと思います。

「老舗は変わらないから老舗ですよね?」と言う人がいますが、それは違います。老舗は革新的(イノベーティブ)であり、時代に合わせて上手に変わることで老舗として残ったというのが本当でしょう。

 

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