事業承継の事例ご紹介〜父からの言葉で承継を決めた、粟津佑介さん〜

スタッフからのお知らせ

親族間での事業承継は、心理的な抵抗感が障害となることが多くあります。経営者側からは遠慮や、会社を譲ることへの不安感、後継者側からは束縛されることに対する嫌悪感や、自由でありたい欲求などが心理的は抵抗となるケースがあります。今回は実際に事業承継を受けた後継者側からの、体験から得た知見をインタビューしました。

 

取材を受けた人:粟津 佑介(あわず ゆうすけ)さん

 

父に望まれての事業承継

―ご自身の事業承継された経緯を教えてください。

当初は家業を継ぐつもりはなく、卒業後は大手インテリアメーカーに就職しました。営業として勤め、その後起業に興味を持ち、3年程前にベンチャー企業へと転職しました。3年前の4月、父の病が発覚し、病室で父からの申し出を受け、家業を継ぐことを決めました。余命宣告より長生きすることもよくあることだから、3年ほどかけて事業承継すればいい、と余裕を持って考えていましたが、9月には父が亡くなり、その年の10月1日から28歳で家業を継ぎました。結局ベンチャー企業に居られたのは半年程でした。

 

―家業を継ぐお気持ちがなかったのは、何故だったのでしょうか?

私の家は祖父の代から続く工務店でした。祖父から父へと受け継ぎ、私が子供の頃には周囲はそのことを知っていましたので、「いよっ、三代目!」などとからかわれたり、進路の話しになると「お前はいいよな、家を継げばいいんだから」と羨まれたりしたことで、周囲とは違う、敷かれたレールの上を歩く人生に抵抗を感じていました。その反動からか「自分の人生を歩みたい」想いが強くありました。

 

 

個人としてのブランディングから、法人としてのブランディングに

―事業承継して、まずどんなところから始められましたか?

環境を整えること、個人的なブランディングから法人としてのブランディングへの切り替えを行いました。

環境は自分自身や、社員達が長い時間を過ごす場所なので、気持ちややる気、モチベーションに大きく関わります。もしも事務所にお客様が訪れた時に、例えば雑巾臭かったりしたら、嫌な気持ちにさせてしまいます。環境を整えることは優先して考えるべきだと思いました。

次にホームページを変えました。これまでは社長(父)の人柄を前面に押し出した、トップページに社長の顔写真が大きく見えるようなホームページだったのですが、それをそのまま私に差し替えても、社長に就任したばかりで顧客との信頼関係の薄い私では、受注に繋がらないと思いました。また、前社長が行っていたような、社長の人柄を会社のブランドにするやり方では、いけないと思いました。最も社長として理想的な在り方は『自分が居なくても仕事が回る』状態です。このことは就職して勤めた会社を見ている中で、学びました。法人としてブランディングして、もしも私が居なくなっても続けていけるやり方にしなければ、会社の存続は危ういと感じました。

自分自身が父から引き継いで大変だったので、同じやり方を自分の子供にさせたくはないと思いました。自分の子には、事業承継するかしないかを、自分自身で選ばせてあげたいと思っています。

 

 

―事業承継して、どんなところが大変だったでしょうか?

これまでは社長の人柄で仕事を受注できていた会社だったので、これまでの顧客にとっては顔も名前も知らない私が、顧客との信頼関係を一から築き直すのはつらいものがありました。私なりに考えて「環境整備」と「法人としてのブランディング」で、何とか乗り越えました。具体的には、500万円を借り入れて事務所を新しくしました。社長の顔写真が大きく載せられていたホームページを、熟練の大工、設計士などの職人達を前面に押し出した内容に変え、社名の「ムクヤホーム」である「自然素材」を意識したデザインにしました。

 

 

事業承継する後継者へ向けて

―これから事業承継される方へ向けて、何から始めることを強く勧めたいと思われますか?

真っ先に考えてほしいのは理念の共有です。会社の理念を、社員達に浸透させることです。理念が考え方に浸透すると、細かいことをいちいち社長にお伺いを立てなくても、社員自身で同じ判断ができます。中小企業の社員が特に考えなければならないのは、目の前の相手が「うちのお客様か、そうではないか」を判断できる力を養うことだと思います。大手企業であれば、クレームに対して専用の対策窓口を設けることができます。中小企業では、そこまではできません。しかも中小では一つクレームがあると対応に追われ、本来の業務が滞ってしまいます。目の前の相手が「うちのお客様だ」と判断できれば、懸命に営業します。そうでなければ、営業はしません。そうすることで、追う必要のない顧客を追って、不要なクレームを抱え込む必要がなくなります。

 

―これから事業承継される方へ向けて、どんなアドバイスをしたいですか?

事業承継を呪縛のように感じていましたが、「縛り」ではなく「絞り」だと考えられるようになって一気に気持ちが楽になりました。家業を継ぐ、という意味では一つの選択肢ですが、やり方次第ではその後の選択肢は自由に広がります。もう少しで家業を継いで3年が経つのですが、経営が安定してきたことで、来年はカフェを始めたり、建設業界専用のコミュニケーションアプリを開発したりと、やりたいことを計画できるようになってきました。血縁のために家業を継がされる「縛り」としてではなく、自分の人生の選択肢を「絞る」と前向きに捉えることで、こんなにも世界が変わるということを体験してほしいです。

 

―最後に、これから事業承継される方へ向けて、応援メッセージをお願いします。

経営者になってはじめてわかったことは、経営はめちゃくちゃ楽しいし、面白いということ。起業がもてはやされていますが、もし家業があるなら、継いでほしい。家業を継いで太い幹が育てられれば、そこから新しい事業を始めることもできます。私は太い幹だけに頼らず、どんどん枝葉を増やして広げていきたいと考えています。事業承継というと伝統を引き継ぐイメージがあるかもしれません。私は歴史を受け継ぐことだと思っています。歴史は重みでもあり、信用の積み重ねでもあります。積み重ねられた時間を無駄にせず、未来に活かしてください。

 

(文章/スタッフ黒沢)

 

プロフィール:粟津 佑介(あわず ゆうすけ)さん

株式会社ムクヤホーム代表。社長就任時に借金1億円だった会社を、2年間で年商3億円まで立て直す。2020年4月には建設業界専用コミュニケーションアプリの公開、5月にはカフェの開業を予定している。ツイッターでは気さくな人柄だけでなく、子煩悩な一面も見せている。

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