下請企業を支援することの難しさ

数か月前の出来事だった。

ある中小企業を訪問して、経営相談を行った。

その企業は零細規模の下請製造業を営んでいるが、若い経営者は事業拡大に意欲を持っており、そのために何を行うべきかの相談に僕が出向いたのだ。

 

経営者が考えた新たな取り組みは、新らたな加工技術を手に入れ、発注先の要望にいち早く対応できる技術および営業体制を作り上げることであり、僕はそのための具体的なアドバイスを行う予定だ。

現在のこの企業の最大の課題は、取引先が3社と限られており、しかも1社からの受注が80%を占め、そのために経営リスクが高いことだった。

 

10日後が二回目の訪問だった。

経営者に会った瞬間、おかしいなと感じた。

目はうつろで、覇気が全くない。

「どうしたのか」と訊くと、「取引先から発注停止を告げられた」ということだった。

「どうしでなんですか」と理由を訊いても、「分からない。ただし、1か月前に予兆はあったのかな」ということだった。その予兆とは、「うちも苦しいので・・・」という程度らしい。

 

この零細規模の下請メーカーは、各種の板金モノを打抜き加工する企業であり、大手の住宅関連商品の2次下請け企業に当たる。

売上高は毎年伸びており、それに対応すべく、昨年は2000万円を投じて、新規の自動打抜き器の設備を導入した。

もちろん、必要な資金全額は金融機関からの借り入れだ。

先に述べた経営リスクが高いということが、結局現実化したということだろう。

 

この現実に遭遇して、コンサルタントは何ができるだろうか。

もちろんコンサルタントは経営当事者ではないので、アドバイスすることしかできないが、経営者に客観的なベストの対応策を助言する必要がある。

僕は、次の3点をアドバイスしたのだ。

 

第一に資金繰りの対応策、第二に新販路開拓策、第三に、このような事態を招いた発注先への対応策だ。

 

詳しく述べる。まず、第一のポイントは金融機関に返済を待ってもらうべく交渉することだ。

少なくとも利息返済は待ってもらう。この企業の場合、2000万円を借り入れていることのことなので、毎月の利息返済額は3万円程度、元金返済も10万円以上だろう。

まずは資金繰り対策として、この支出削減を至急に行う必要がある。

 

第二に、新販路として、新たな取引先を探す。短期的には難しいが、そもそも1社との取引額が過大であったことが、この困難を招いた遠因であり、新たな取引先を探すことが必要だ。

僕の場合は残念ながら、知合いのメーカーの中で、この種の部品加工を必要とする会社はない。

仕方がないので、商談会への申し込みや企業マッチング・サイトへの登録を勧めた。

 

第三に、発注を止めると伝えた発注先への対応に関しては、そもそも、突然に発注を止めることは、道義上も法的にも許されるとは思えなかった。

発注を止めるには、合理的な理由と一定期間の予告期間が必要だ。

一定の予告期間とは、数か月程度だろう。

この会社の場合、「予兆があった」らしいのだが、これが微妙なニュアンスだろう。

 

このような困難な事態にコンサルタントは遭遇することが、(少なくとも僕の場合は)良くある。

このような経営者に対し、冷静に適切なアドバイスができるかというと、必ずしも僕は自信がない。

でも、少なくとも自分自身の考えを伝えることはできる。

少なくとも、その時に最善だと思った対応策を伝える。

 

ただし、その夜になって、「あんなアドバイスじゃなくて、こんな対応策もあったのに」と悔やむこともある。

いや、大抵の場合は、夜に反省することになる。その場合は、翌日に電話することになる。

ジャイロ総合コンサルティングの経営コンサルティング事業の詳細はこちらから

SNSでセミナーの様子をチェック

#ジャイロのセミナー